2025.4.28

ホワイトアスパラを調理して、ドイツの春に想いを馳せる朝 haru.×村瀬弘行【後編】

PROJECT

月曜、朝のさかだち

 haru.

『月曜、朝のさかだち』シーズン2、第7回目のゲストはファッションブランド『suzusan』のCEO兼クリエイティブディレクターの村瀬弘行さんをお迎えしています。記事の前編では、初めて二人がドイツで出会った日のことを振り返りながら、村瀬さんがブランドを立ち上げるまでに辿った人生について、ブランド『suzusan』の誕生秘話、伝統工芸有松鳴海絞についてお話しいただきました。

後編では、ブランド『suzusan』に込めた「風通しの良いデザイン」とはどのようなものなのか、伝統工芸の再解釈について、haru.さんもビジュアルディレクション、モデルとして関わった和装ライン『鈴三』の立ち上げになどについてお話しいただきました。

本編へ進む前に、まずは視聴者さん、読者さんから集めた「ゲストに聞いてみたいこと」にお答えいただきました。今後も『月曜、朝のさかだち』に遊びに来てくれるゲストのみなさんに聞いてみたいことを募集しているので、ぜひORBIS ISのSNSをチェックしてみてくださいね!

村瀬弘行さんに聞きたいコト



Q.どんなときに着てもらえると嬉しいな、などお考えになったことがあれば、お聴きしてみたいです。

A.衣服は気持ちを切り替えてくれる道具だと思っていて、落ち込んでいる時に僕は明るいオレンジなどの色のものを着て「よしっ」となる時もあります。染めの色と喜怒哀楽、さまざまな感情を一緒に感じてもらえる服であったらいいなと思います。
あとはこんな色や柄は今までの自分は着なかったな、と日常の中の少しの冒険と、大人になっていくにつれて着るものも変わってきている成長を楽しんで、なんでもない日も、人生の節々の時も長い時間を共に着てもらえると嬉しいです。

 

Q.ご自身の中に、日本人ならではと思える感性や美意識を感じることはありますか?

A.日本人は海外だと「親切で、清潔で、透き通ってる」というようなイメージで語られることが多々あります。確かにそれは他の国では殆どみられない日本人の特徴ではあるのですが、それだけではなく、雑居ビルのスナックとか、違和感のある様々な音楽だとか、日常の隅々にハイアンドローが共存して、カウンターカルチャーが常に起こり続けているというのが日本らしさだと思っています。
そういう多面的なところは自分の中にあると感じる時があり、それは日本人らしいのかなと思う時もあります。繰り返し作り続けることで昇華する高い手の文化と、常にアマチュアで居続ける新鮮な目、その両方が日本らしさだと思います。

Q.有松でいま話題の/オススメの場所があれば教えてください。

A.-世界の秘境から届くナチュールワインを出してくれるワインショップ&バールのアンベロさん。いつもグッとくるおいしいワインを出してくれます。
-店主のアウトドアとルアーフィッシングの趣味と偏愛が詰まったCompassさん。釣りをしない僕も店内に置かれているもののストーリーに毎回ワクワクします。甘えん坊のボーダーコリーがお出迎えしてくれます。
-江戸初期に歴史が遡る神社、天満社。鬱蒼とした森の中の長い石階段を登って息が切れた頃に現れる境内は気持ちをすっきりさせてくれる地域の人たちの心のよりどころ。愛知県は実は神社仏閣の数が日本一なんです。
-徳川家が来たお茶室や勝海舟の書などもある有松の旧家、竹田邸。お庭や建具の細部は息を呑む美しさです。普段は入れませんが、特別なイベントの時には公開されます。
-僕が高校生の頃にアルバイトをしていた手打ちうどん屋さん、寿限無茶屋。太い硬めの麺の味噌煮込みうどんがおいしいです。アルバイトをしていた時はウエイターとうどん粉を踏む仕事をしていました。
-suzusanの日本で唯一のフラッグシップショップもぜひ。有松駅下車改札を出て徒歩80秒です。昨年引っ越して新しくなり3フロアあるビルでsuzusanの衣服、ホームコレクションの全てが見られます。3Fギャラリーでは不定期でさまざまなイベントも開催しています。僕のインスピレーションの源泉となる音楽や本、ドイツの古いレコードプレーヤーなどを集めた村瀬弘行の頭の中コーナーも覗いてみてください。

    
  

「風通しが良いデザイン」を大切にする

haru._『suzusan』はなぜ地元の有松ではなく、デュッセルドルフでスタートしたんですか?

村瀬弘行(以下:村瀬)_いろんな偶然のきっかけが重なったんだけど、デュッセルドルフの学生寮に住んでいたとき、東ドイツ出身のドイツ人と暮らしていたんです。彼と2008年に会社をつくったことが一番のきっかけですね。

haru._ひろさん的には、ドイツから発信しようと決めていたんですか?

村瀬_最初は日本でやらないように決めていたんです。日本でやると、おばあちゃんのものとか、古い浴衣みたいな先入観が入ってしまうから、そうならないようにしたくて。たぶん、有松で作って東京で発表するかたちだと、田舎から来たブランドみたいな見え方をする。それよりも、「パリのセレクトショップに置いてあるブランド」とか「ニューヨーカーが着ているブランド」になって、日本に行った方が、もっと新鮮な目で見てもらえるだろうなと最初から考えていたんです。

haru._最初からそのビジョンが見えていたからこそ、最初はストールから始めたんですか?

村瀬_『suzusan』はストールから始まったんだよね。僕は服作りを学んでいなかったから、ファッションについて知らなかったの。『suzusan』の名刺に自分の名前と肩書きを書いた日からクリエイティブディレクターになった感じだから、どうしようかなと考えていて。そんなときに、製造も簡単で、マーケットに入っていく方法としてもストールは有効的だなと思ったんです。最初からBtoBのセレクトショップをターゲットにブランド展開していたんだけど、そうなったときに、どこかのブランドのハンガーをどけて自分たちのブランドを並べてもらわないといけないとなると、結構難しい。だけど、ストールだったら既に服がかかってるハンガーにスタイリングして置いてもらえればいいから、参入が割と楽だったんですよ。もちろん体力的には相当しんどかったけどね(笑)。

haru._ストールってヨーロッパの人がすごく使うアイテムでもありますもんね。

村瀬_夏も夜は肌寒かったりするからね。それに、浴衣もストールも布一枚で作るから、有松の人たちもサイズを少し変えるだけで作れたんです。

haru._『suzusan』のアイテムって、街中で着てる人を見ると、絶対に『suzusan』のものだと気づきます。ひろさんは、『suzusan』の特徴ってどんなところだと思いますか?

村瀬_手仕事で一点一点作っているところ、素材感、色や柄かな。個人的には、「伝統工芸です!」とか「メイドインジャパンです」ということを大々的に言わなくてもいいかなと思っていて。それこそ日常で身につけられるものとして使ってもらいたいなと思っています。自分のなかで「風通しがいいデザインにしよう」というテーマがあるんです。僕が彫刻を勉強しているときに、先生から「風通しがいいデッサンを描きなさい」と教えてもらったんです。例えば目の前にコップがあったとして、表面的に描くと輪郭から線を描いて、真ん中を塗りつぶすようなデッサンになると思うんだけど、彫刻的なデッサンの書き方は、自分との距離が一番近いところ、遠いところ、その周りの空気を描くみたいなことなんです。コップの後ろにも空間があって、その向こう側にある景色を見ながら、そのなかにあるコップを描きなさいみたいなことだったの。

それを僕が今やっていることに置き換えると、素敵なTシャツの柄に目がバンっといくのって、二次元的なもので、風通しがいいとは思わない。ニューヨークのマンハッタン、イタリアのビーチ、フランスのシャンゼリゼ、ドイツの山奥とか、その景色のなかにそのものが馴染んでいると、それは風通しがいいなと思えるんです。ちょっと抽象的だけど、そういうものを作ろうと思っています。

haru._それを目の当たりにしたことがあります。ミュージシャンのmaco marets*①さんが『suzusan』のニットを着て、菜の花畑に立っているアーティスト写真を撮影したときに、本人も、景色も全部が絶妙に混ざり合って、すごく素敵な佇まいに見えたんです。そこで撮影する予定はなかったんですけど、急遽撮影して、それがアーティスト写真になりました。

村瀬_いい写真ですよね!

haru._シティと自然のなか、どちらで見てもすごく馴染むし、その人らしさも引き出される。そんな服ってなかなかないなと思います。

村瀬_「『suzusan』のアイテムって50メートル離れてても分かるよね」ってよく言われます。アイコニックでわかりやすいものがあるのはありがたいんだけど、それがギラついてる感じにはさせたくないなって思ってる。

用途と素材を変え、伝統工芸を広げていく

haru._ひろさんと前にお話ししたときに、職人さんから「そんな柄は作りたくない」みたいに言われることもあると言っていましたね。

村瀬_そうだね。そこは常にデザインの挑戦です。技術的なところに関しては、これだけ細かいものを、これだけ時間をかけて作れることに対して、すごいって言ってもらいたい人が多くて、そこに関しては本当にすごいなと思っているの。ただ、今日haru.ちゃんが着ているものとかは、技術的にはそこまで高くないんだけど、デザイン的にはすごくチャレンジングなことをしてて。普通の職人がその柄を作ろうと思ってもたぶんなかなか作れないんだよね。

haru._どんなこだわりがあったんですか?

村瀬_シンプルに見えると思うんだけど、相当ひねりが加えてあるんです。普通は規則正しく蛇腹に折って染めるんだけど、これは不規則に折っているんです。こういうデザインに対して職人(村瀬弘行の父)がそんなの「子ども騙しだ」って言ってきてよく衝突します(笑)。

haru._トランプ柄のシリーズもありましたよね。

村瀬_LOVEのアルファベットが書かれた「LOVEシリーズ」とかね。そのときにショッキングピンクみたいな色を出したんだけど、そのときも「こんな色はおかしい!」みたいな感じで震え出したりとか(笑)。

haru._そういうときはどうやって折り合いをつけるんですか?

村瀬_でも、どれだけ頑張って作っても、売れなかったら伝統工芸って続かない。作るだけじゃなくて、売るところまでを考える。それも、日本だけじゃなくて、世界全体を見る必要があるんですよね。だから僕はセールスの人たちに「これって売れるかな?」とサンプルを見せたりします。ショッキングピンクのアイテムに関しても、「すごくいいね!」とセールスの人に言ってもらえたので、父に「こんなん絶対売れんわ!」みたいに言われたけど、そうするとこっちも火がつきました(笑)。

haru._そうやって一つずつ成功体験を積み重ねているんですね。

村瀬_それと、素材にもチャレンジしていて。伝統工芸を軸にブランドをやろうってなったときに、伝統工芸を三分割に整理してみたんです。まず素材、次に技術、最後に用途。400年の有松の歴史のなかで素材は木綿で、技術は絞りで、用途は浴衣というのが続いていたんです。でも、今街を歩いていても、浴衣を着ている人ってそんなにいるわけじゃない。ドイツだったらそんな人ほとんどいないし。何を残して、何を変えるかってなったときに、素材と用途を変えようと思ったんです。そこで素材を木綿からカシミヤにして、用途を浴衣からストールにすることで、今まで日本人しか使えなかった伝統工芸を、世界中の人たちが使えるようになる。それが僕が『suzusan』で最初にやりだしたことなんです。

写真提供 :鈴三

『鈴三』としての新たな挑戦

haru._鳴海絞りの技術を用いて、浴衣ではない用途のアイテムを展開してきましたが、今年3月に和装ライン『鈴三』を立ち上げられましたよね。

村瀬_僕のなかでは和装をやることはずっとタブーとしてきたんですけど、僕で5代目となる『鈴三商店』ですが、父の代までは有松の卸問屋さんや庄屋さんとかからお仕事をいただいてずっと続いてきたんです。それが産地のシステムだったんですよね。ただ、その産地の分業システムが、家業を閉じてしまうことによってどんどんなくなってきていて。僕はそこを無くしたくないという思いもあって『suzusan』を始めた部分も大きいんです。そうしたときに、今までやってきた人たちと競合にならないように、洋服を作って海外に展開することにしたんです。そういった意味もあって、最初は日本でやらないように決めていて。なので、これまで和装をやらなかったのは、ブランディングの意味合いと今までお仕事をいただいていた人たちからのご恩を無駄にしちゃいけないという思いがあったんです。

ただ、『suzusan』を始めて17年経つんですけど、その間にも産地の職人の数はどんどん減っていって、産業としてもどんどん小さくなっていて。2008年に立ち上げたときも、僕の父親が一番若い世代で、基本的には60代から90代の人たちがものづくりをしている状態だったんです。その人たちもどんどんいなくなってしまうし、有松は分業で成り立っていたから、一人辞めちゃうとその技法自体がごっそりなくなってしまう。それをもう一度復活させようと思っても、難しいわけで。これまでにたくさんの美しいデザインを作ってきているのに、これを作れる人がもういなくなってしまうのかと思うともったいないなと感じていて。そうなると更に辞めちゃう職人さんも増えてきてしまうだろうから、だったら自分たちで和装を始めようと思い、『鈴三商店』のルーツを遡って、縦書きの『鈴三』というブランドを立ち上げました。素敵なロゴは書家の加山幹子*②さんに書いていただきました。

haru._私のなかではローマ字で横書きの『suzusan』のイメージが強いから、新鮮でした。

村瀬_僕はあまり着物の知識がなかったから、籔谷智恵*③さんという方にディレクションをお願いしているんですけど、薮谷さんが仏教用語の「而二不二(ににふに)」*④という言葉を教えてくれたんです。「異なるけど、似ているもの」という意味があるそうで、イントネーションも面白いし、これまでの『suzusan』とサウンドは全く同じだけど、書き方や表記が違うので『鈴三』のコンセプトにぴったりだと思いました。今は、これまでの経験や海外での見せ方をどう表現しようかなと考えています。着物や浴衣というと、お茶の席や竹林のようなイメージがあると思うんです。

haru._すごくそのイメージがあります。しかも、私は型や作法を知らないから、気軽に踏み込んでいい世界だとは思っていなかったです。

村瀬_僕自身も同じで、毎日浴衣や着物を着る人間じゃない。ただ、洋服自体には興味があるし、いい布に肌で触れたいとも思う。そんな服って、日常のインスタレーションみたいな感じで、気分を変えてくれたりするものだと思うんです。もっと日常のなかで感じてもらう伝統工芸にしていきたいなと思っています。今回はharu.ちゃんがビジュアルのディレクションをしてくれたんだよね。

haru._私も含めて、手仕事で何かを作っている人にお声がけして、モデルをしていただきました。と言っても、かれらが普段使っているアトリエや仕事場で撮影をさせてもらったんです。浴衣を着ていることで、普段の動きや所作がすごく新鮮に美しく見えて、撮影していてすごく楽しかったです。

写真提供 :鈴三

村瀬_出来上がった写真を見たとき、「わあ!」って言葉が出ちゃった(笑)。僕はharu.ちゃん以外の方と面識がないから、普段どんな服を着ているのか知らないんだけど、その人自身に馴染んでいたよね。しかも、その人自身が普段生活や仕事をしている場所にもしっくりきているのがね。

haru._不思議でしたよね!先ほども「風通しがいい」服の話がありましたけど、背景がどこでもしっくりくるということが、和装でも起きているんです。着付けをしていただくときに、着付けの先生が「襟の開き具合は、その人の雰囲気に合わせて調整して着付けるんですよ」っておっしゃっていて。もっときっちりと型があると思っていたので、自分に合わせて調整していいんだと驚きました。

村瀬_今回の撮影でも同じ着物だとしても帯を変えたりしていましたよね。

haru._そうするとガラッと雰囲気が変わるんですよね。

村瀬_見ていてとてもおもしろかったです。風景が変わるたびに、ハッと驚かされたりしました。

haru._装いが変わるだけで、普段の景色や見え方が変わるんだなと思いました。

村瀬_絞りの所作っていうところは一緒だけど、アウトプットが違うだけでこんなに見え方が変わるんだっていうのは、新しい発見だったし、ルーツは発見になるんだと、また新しいものに触れた感覚でした。

haru._しかも今までタブーだと思っていた浴衣でその発見をしているんですもんね。

村瀬_そうそう。一年ぐらいかけて準備したんだけど、そのプロセスのなかですごくおもしろい発見がいっぱいあった。浴衣を着る人からしたら、絞りの浴衣のことは知っていると思うんだけど、『鈴三』らしい変わった柄の浴衣とかに対して、新鮮な反応を示してくれたりするんです。普段浴衣を着ないような男性が着てくれて、「周りからの反応がすごくよかった」という話も聞きました。

haru._私たちも下着を売るときに、「新しい自分と出会う感覚がありますよね」と話すことがあるんですけど、男性だとピンとくる人が少なくて。トランクスやボクサーとか色々下着の種類はあるけど、それを着て新しい自分になることはあまりないそうなんです。でも、今回の撮影でモデルとして参加してくれたヘアメイクのNORI*⑤さんが初めて浴衣着て、「こんな自分もいるんだ!」と新しい自分を発見しているのが感じられて、すごくいいなと思いました。

村瀬_あと、絞りがなぜ浴衣と合うのかというと、日本の夏って蒸し暑い気候だから、フラットだと肌にペタッとくっついて汗ばんじゃうんです。でも絞りの生地は表面がデコボコしているので、風通しがよくて涼しく感じられるんですよ。昔の人はよく考えたなと思いますよね。

haru._肌の感覚が敏感だったんでしょうね。

村瀬_そういう意味もあって、400年の歴史が続いてきたんでしょうね。

写真提供 :鈴三

人と人、地域と地域を繋げる次なるステージ

haru._今まで『suzusan』はヨーロッパ圏を中心に販売していましたが、『鈴三』は日本での展開がメインになるんですか?

村瀬_そう、日本だけ。『suzusan』は2008年に始めて、今では29カ国120都市くらいで展開しているんです。ただ、和装に関しては日本でまずは始めたくて。日本ってものづくりが盛んで、テキスタイルもいろんな地域にいろんなものがある。伝統工芸って、経済産業省が指定しているんですけど、100年以上続いているとか、昔から同じ素材や工程を経て作られているとか、いくつかの規定があって決まるんです。それを北海道から沖縄まで数えると243品目ある(2024年10月時点)。日本には他の国ではなくなってしまったような美しい、素晴らしい技術が残っている。僕自身も日本に帰ってくるたびに、いろんな工房を見に行くんだけど、本当にすごいことをしているなと学びがある。それをもっと日本の人たちに知ってもらいたいと前から思っていて。そういった部分を『鈴三』を通して深掘りしていけたらなと思っています。

haru._ひろさんの今後の展望はそういったところにあるんですか?

村瀬_『suzusan』を始めて15年以上が経つんだけど、次の15年で何をしたいか考えていたときがあって。そのときに思ったのが、「To Local(地方へ)」という軸と「From Local(地方から)」の2軸。今日本に続々と海外から人が来ていて、僕にも「来月日本に行くんだけど、あなたのところに行ってもいい?」と連絡をもらうことがたくさんあって。そこで1日有松を巡るツアーをしているんです。地域の街並みを歩いて、徳川家が来たお茶室でお茶をいただいて、地域の食材を使ったレストランでご飯をいただき、職人さんの仕事を見て、ネイティブな名古屋弁を話すおばあちゃんたちと交流する。そして最後に絞りのワークショップをやるというツアー。僕らは華やかなファッションショーをやっていないし、そこにあまり興味はなくて。それよりも人間的な温もりを伝えたいなと思っているんです。誰がどこでどういうふうに作っているのというのを、全て見せられるし、伝えられる。それはそういった地域があるからこそだと思っていて。そういったツーリズムを作るのが「To Local」。

もう一つの「From Local」は、15年前に『suzusan』を始めたときに、父親から「15年したら、絞りをやる人は誰もいなくなる」と言っていたんです。実際にこの15年で仲良くしていた職人さんたちも辞めていったり、亡くなったりしていて。でも、今20代から30代の若者もものづくりを一緒にやってくれていて、産地に一つ未来を作れたと思っているんです。この経験は、他の産地でも置き換えられるんじゃないかと思っていて。というのも、他の産地を見ていても、同じような課題をどこも抱えている。どうやったら次の世代に繋いでいけるのか、どうやってデザインをアップデートしたらいいのかわからない。持っている技術は素晴らしいのに、どこもそういった課題を抱えていて。そういった課題に対して、『suzusan』が培ってきた経験を公用的に使うことで、産地の未来を作れるんじゃないかと思っています。有松を産地Aとするなら、伝統工芸がある243の場所にも置き換えられるかもしれない。そうやって「From Local」を増やしていき、いずれ「From Locals」にしていきたいんです。僕はグローバルビジネスをやっている感覚はなくて、ローカルとローカルを繋ぐことをしている感覚なんです。そういった意味では、僕のなかではパリもロンドンもニューヨークもグローバルではなく、ニューヨークにいる〇〇さんっていう、顔が見えるローカルなんですよね。

haru._そのイメージがすごくあります。ひろさんと誰かとの繋がりという。

村瀬_顔が見える人が作ったものを、顔が見える人のところに届けるのが僕の仕事かなと思っていて、今後もっとやっていきたいなと思っています。

それでは今週も、行ってらっしゃい。

*①maco marets
日本のラッパー/MC、作家。自主レコードレーベルであるWoodlands Circleを主催。詩文などの執筆業も行っている。  

*②加山幹子
鹿児島県生まれ、千葉県育ち。2018年より京都に暮らし、書を用いた作品を発表する。

*③籔谷智恵
神奈川県生まれ、現在は富山県を拠点にコピーライト、俳句、エッセイなど、文筆全般を行う。2024年 鈴三(suzusanの和装部門)代表と共同のクリエイティブ・ディレクターに。

*④而二不二(ににふに)
「2つであって2つではないこと」を意味する仏教用語

*⑤NORI
ヘアメイクアーティスト。ヘアサロン勤務、美容学校講師を経て日野眞郷氏に師事。2010年よりフリーランスのヘアメイクアップアーティストとして活動を開始し、近年は国内外のクライアントから多くのオファーを受けている。現在はクライアントワークと並行して日本各地でヘアメイクセミナーを企画、開催している。繊細かつ大胆な指先のタッチによるストーリーテリングなヘアメイクを得意としている。


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Profile

村瀬弘行

suzusan CEO兼クリエイティブディレクター。有松絞りを営む職人の家系に5代目として生まれる。アーティストを目指して20歳でヨーロッパへ渡り、ドイツ・デュッセルドルフの国立アカデミーで立体芸術と建築を専攻。2008年在学中に数本のストールでオリジナルブランド『suzusan』をスタートさせ、現在では世界29か国、120店舗で取り扱われている。また自社ブランドにとどまらず、日本の伝統工芸の継続性と循環を生み出す社会活動も精力的に展開している。

photography: miya(HUG) / text: kotetsu nakazato

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